歴史学事典
歴史学事典
要約:古今東西にわたる「歴史学」の対象と方法を問う事典。
書誌情報
- 編者:尾形勇(10)・加藤友康(7,14)・樺山紘一(2,6,15)・川北稔(1,13)・岸本美緒(5,11)・黒田日出男(3,12)・佐藤次高(8)・南塚信吾(4)・山本博文(9) ()内は責任編集の巻。
- 出版社:弘文堂
- 出版年:1994~2009年。
- 頁数:各巻700~900頁程度。
- 値段:各巻16000円+税
- 表記:横組・二段組
内容
- 対象:「歴史的事実を詳細に記載する『歴史事典』ではなく、あえて学の方法にかかわる『歴史学事典』」として、「日本・東洋・西洋などの地域的区分、古代・中世・近代などの時代的区分を超えて、歴史学のあり方を検討」する。
- 詳細:全十五巻+別巻第十六巻は総索引。全十五巻は、ⅠⅡⅢの三部で構成されるが、刊行順を示す巻数とは異なる。Ⅰ歴史学の概念は、12王と国家、9法と秩序7、戦争と外交、13所有と生産、4民衆と変革、11宗教と学問、10身分と共同体、15コミュニケーション、8人と仕事、1交換と消費。Ⅱ歴史学の素材は、2からだとくらし、3かたちとしるし、14ものとわざ。Ⅲ歴史学の方法は、5歴史家とその作品、6歴史学の方法。
- 第十六巻にこの順序に沿った目次があるので、ここではあえて巻の順で項目分類を示す。なお各巻とも五十音順で、項目別に記載されている訳ではない。
- 交換と消費 贈与と交換、商業、貨幣と金融・、税と財政
- からだとくらし 身体と病気、衣食住、性と結婚、遊戯と趣味、人生と生死
- かたちとしるし (項目分類なし)
- 民衆と変革 民衆支配に関するもの、民衆世界の原理、民衆の運動民衆運動の媒介者、民衆の結社、エスニシティ・民族とその運動、宗教的運動、階級・利益組織とその運動、市民運動、革命と民衆、民衆運動の思想、主要反乱
- 歴史家とその作品(項目分類なし)
- 歴史学の方法 理論と論争素材と道具、制度と分野
- 戦争と外交 戦史と戦闘、軍隊と兵器、平和と統合の機構、外交と国際関係
- 人と仕事 町、むら、牧、山、海、道、家、神・仏、政、戦い、遊び、文化、その他
- 法と秩序 法と慣習、規範と倫理、制度と秩序、侵犯と逸脱
- 身分と共同体 集団と共同体、身分と社会、家と婚姻、差異と差別
- 宗教と学問 体系と概念、歴史の潮流、文化の制度、形態と実践
- 王と国家 国家と政治、王と王権、官僚と行政、文化の脈絡
- 所有と生産 所有とステイタス、労働とマネージメント、生産とサービス、地域とシステム
- ものとわざ とる、そだてる、こしらえる、くみたてる、ためる、はこぶ、はかる、みちびく、あらわす、しる
- コミュニケーション 人間、表現、情報、媒体
- 別巻総索引 全項目一覧表、和文事項索引、外国語事項索引、和文人名索引、外国語人名索引、執筆者索引
付記:巻ごとにも索引(和文事項索引、外国語事項索引、和文人名索引、外国語人名索引、執筆者索引)がある。
参考例
協同組合 きょうどうくみあい
〔英〕co-operatives;co-operative society
〔仏〕coopératif;société coopérative
〔独〕Genossenschaft 〔露〕кооперация
(1)協同思想 協同association;co-operationの原理や習性に基づく民衆の互助組織は、中世以来の各地域で様々な形態で存在した。(中略)
(2)ロッチデイル組合 民衆自身の創意に基づく先駆的な協同組合のなかで、イギリスのロッチデイルに1844年に設立されたロッチデイル公正先駆者組合ROchdale Equitable Paioneers Societyはとくに有名である。(中略)
(3)ドイツの協同組合(中略)
(4)社会主義と協同組合(中略)
(5)ロシアの協同組合
(6)日本の協同組合 日本における伝統的な民衆の互助的協同組織としては、頼母子講(無尽講)があった。二宮尊徳や大原幽学の思想と実践には、協同組合的要素がある。明治時代以降は西欧の協同組合の方式が導入されたが、平田東助らが創設した産業組合は、皇国思想に基づく官僚主導的傾向の強いものであった。(中略)戦後、連合国の日本民主化政策の一環として協同組合の再建が行われた。その際GHQの指令で農・商工・信用・林・漁・消費の各分野に分割された。そのうち農(業)協(同組合)(日本)は戦後の農地改革で自作農化した中小農民の経営上の利益の擁護機関として保守政権と結びついた。消費組合は生活協同組合(生協)(日本)として、独自の購買組織「班」を通じて主婦層に基盤を拡げ、全国に普及し、発展した。安全食品、リサイクル運動、医療生協活動、平和運動などにも積極的にとり組み、国際的にも高く評価されている。また、ワーカーズコレクティブ(労働者協同組合)や高齢者協同組合などの試みもみられるようになった。
(7)ICAと協同組合 (中略) (今井義夫)
→互助、環境保護活動、NGO、消費者運動、反戦平和運動、社会主義、ペレストロイカ、共産主義
〔関連文献〕Holyoake,G.J.,Self Help By the People:history of co-operation in Rochdale. Part1・2,1858/78(ホリヨーク著/協同組合経営研究所訳『ロッチデールの先駆者たち』1968)(後略)
-pp.145~148より引用。
使い方
この事典は、近現代日本の歴史的事項を詳しく知るよりも、時間・空間的な縦横のつながり=歴史を学ぶのに適している。索引でピンポイントに探すだけではこの事典の良さを十分生かせないことに留意したうえで説明しよう。
参考例で挙げた協同組合は、16巻総索引の和文事項索引から10巻にも立項されていることがわかる。集団と共同体の項目にくくられているが、こちらでは日本の例はなく、近代ヨーロッパでの協同組合の発展の経緯のみが書かれている。参考例では民衆の結社の項目に入っており、戦後現代日本の協同組合も説明されている。事典の事項索引で意味の近い言葉も確認すべきだ。
備考
全時代、全地域を対象とするため、必ずしも近現代日本に限った説明が出てくるとは限らないが、そこにこの事典の新鮮さがある。自分の興味関心のあるテーマの巻を通読することをお勧めする。私もまだ読めていないのだが。