ポール・J・シルヴィア『できる研究者の論文生産術』
このサイトの趣旨に反するが、ちょっとした文章修業のための雑感をしばらく記す。
できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (KS科学一般書)
- 作者: ポール.J・シルヴィア,高橋さきの
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/04/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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原著はHow to Write a Lot: A Practical Guide to Productive Academic Writing 2007年。
売れているらしく、今日買ったのは2015年7月の第5刷。
著者はアメリカの心理学者だが心理学に限定せず、研究に携わる読者を想定した本だ。
のような「論文とは何か」を大学生に初歩から教える本ではないし、かといって
論文作法―調査・研究・執筆の技術と手順 (教養諸学シリーズ)
のような論文を書く技術を体系的に披露する本でもない。
論文をまとめたいがなかなか書けない人に、何が悪いのかを尋ねてくれる本だ。
「このごろ忙しいし」「あの研究も読んでおかねば」「そういえばパソコンの調子が悪くて」「書く気になれば書けるさ」
そういった言い訳を各個撃破する第二章「言い訳は禁物」だけでも読んでもらいたい。スケジュールを立てること、単純にして明快な方法が答えである。
書く時間がとれないのではない、書く時間はまず割り振るものである。この第一の言い訳を禁止するだけで「一気書き(binge writing)」派は手も足も出ない。
恐ろしいのは執筆の遅れをインスピレーションに求めた第四の言い訳への解答だ。
書けない研究者を集めた実験で、緊急時のみ書く、気が向いたとき書く、書かないとペナルティの3パターンに分けたところ、執筆量は、緊急時を1とすると気が向いたときは3.5、ペナルティは16となったという。独創的なアイディアを生むまでの平均日数は、順に5日、2日、1日。無理やり書かされた方が質量ともに書けるのだ。
「古代ギリシアでは、詩や音楽や悲劇にはそれぞれ神々が割りふられたわけだが、アメリカ心理学会(APA)スタイルで書かれた学術論文に割りふられた神はいない」p.29
クリオが愛らしく物思わしげな顔を現わすのは、時間と責務に追われる者の前なのかもしれない。
論文を書く時間を確保したあとは何をするのか。目標を設定し(書く字数など作業を具体的に)優先順位をつけ、その達成度を記録する。ではスランプにはどうすれば?
スランプとは、スランプさんが完成した論文をプレゼントしてくれると信じて寝ている子の家に、煙突から忍びこむ時間泥棒のようだ。信じる者は救われない。
ここまでで本の三分の一。以降も文体や学術論文の投稿方法などの章は続くが、英語圏での論文の仕組みが目新しいほか、そこまで重要なtipsはない。1時間もあれば通読できるので、論文の尻に火がついている人にぜひ。